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このドラマでは、登場人物がある日突然進歩を遂げるというシーンはほとんどない。ドラマなんだから夢を見たいという向きもあるかも知れないが、実際問題、楽器の練習などでも、練習しても翌日には忘れていて、そしてまた練習して、ある日はっと気が付くと出来るようになっている、これが現実である。 それでも、変化していく様子は描写されている。分かりやすいのは結婚などの通過儀礼である。 主役の喜代美(貫地谷しほり)は、草々と気持ちが通じ合うと即、結婚する。ともかく、「結婚」という経験をさせたかったのだろう。喜代美に、そして草々に。 私見では、この結婚によって草々は、「青木一」という名前を得たのである。喜代美が結婚(婚姻届を書く)まで、草々の名前を知らなかった、というのは、一つには相手のことを知らないまま結婚したということ、もう一つは、これで草々が小浜の和田(正典)家の息子の青木一になったのだ。 草々の破門騒動から結婚の意味するところは「青木一」の再生だろう。 (新聞に「結婚まで名前を知らないなんてありえない」との評が載ったが、名前を知らなかったことの意味は、こういうことだと思っている) 草々が、両親を失って少年期に草若に引き取られたことは、ドラマで明かされる。そこで、「徒然亭草々」という名をもらうが、「青木一」としての人生は、喜代美との結婚で再スタートとなったのだろう。 喜代美の父・正典に「ハジメと呼んで下さい」というシーンがあり、喜代美や弟の正平(橋本淳)とのやりとりが、正典の言い回しと似てきているところがあるようである。 草々役(青木崇高)が、正典役(松重豊)の息子となってもおかしくない外見であることも、計算済みのキャスティングであると思う。 そして、徒然亭の事実上のおかみさん・糸子(和久井映見)の娘との結婚によって、一門復活後の小浜一家との親和性の強くなった徒然亭の後継者となったのではないか。 (ドラマでは草々は、まだ、理想の妻・おかみさん像としては亡くなった志保のイメージにとらわれているようだが、少しずつ喜代美の存在が重くなってくるのだろう。その辺は、「恐竜脳」ゆえ、草々自身もはっきりとは理解できないまま、「師匠の落語を伝える」と口にしているのだろう) 小草若(茂山宗彦)が、喜代美に振られるのも、彼は小浜の和田家の息子としてはふさわしくないということであろう。小草若は、あくまでも「吉田仁之助の息子」なのだ。 徒然亭草若こと吉田仁之助と亡きおかみさんの志保の息子・「吉田仁志」は、小浜の糸子がおかみさん役を務める一門復活後の徒然亭で、次第に仕事がうまく行かなくなるのも、当然の成り行きなのかも知れない。 草若(渡瀬恒彦)亡き後、草々・若狭(喜代美)は母屋に住んでそこで弟子を取ることになる。これはまず、外的な変化である。そして、喜代美によって変容した一門復活後の徒然亭を受け継ぎ、次世代へ繋ぐという役割を果たしていくこととなる。 ところで、「草々は草若の芸風を受け継いでいる」というドラマ上の評価の意味するものがややわかりにくいきらいがある。普通に考えて「技術的には問題ない」、ただ、草若の口から「あれで気が小さい」「脆いところがある」と性格上の懸念が示されている。 芸風についても、ライバルの土佐屋尊建(波岡一喜)から、「師匠のコピー」と言われている。草若自身が、継承に当たって少しずつ違ったものになるべきと考えていたことからしても、「コピー」の状態は好ましいとは言えまい。 もちろん、喜代美や和田一家と過ごすうちに経験することが性格上の欠点の克服につながり、ひいては − 直接的ではなく − 芸に好影響に与えていくのであろう。 できれば師匠との違いか、芸の進歩か、ドラマでも示してくれないものか、と期待している。 継承しているものは、すでに草若の徒然亭から変容しているのだから。 |
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